視線入力の姿勢づくりと環境つくりは手探り状態でした。
大きく3つの課題がありました。
1,臥位か座位か
まず思いついたのは仰臥位でした。
ノートパソコンを安全に固定する方法に苦労しました。
2018年3月
側臥位も良さそうに見えましたが視線入力装置の位置合わせが難しかったのでした。
画面は、Look to Learn(Smartbox Assistive Technology / 株式会社クレアクト)
2018年2月
はじめのうちは、楽な姿勢が良いだろうと思い、仰臥位や側臥位を試しました。
しかし、目を使うのに、一番高いパフォーマンスを引き出すような姿勢に変えるべきではないかと考えが変わり、椅子座位に替えました。
後傾椅子座位で視線入力に取り組む。
ノートPCの画面を24インチモニターに複製している。iPad は動画記録用。
2018年9月
座面を起こすと首の緊張が軽減しやすい傾向があり、良さそうな感じでした。
しかし一方で、座面を起こすと疲労の原因になるというデメリットがありました。
当たり前ではありますが、座位保持装置が体幹をしっかりとサポートできることが必要だと再認識しました。
椅子座位(後傾10°)で視線マウス Gaze Point (Tobii Dynavox) を用いて視線入力装置と目の位置合わせをしているところ。
2021年2月
前傾姿勢は、息子の脊柱側弯や首のすわりの状況から、安定して画面を見ることが難しいことがわかりました。
前傾姿勢で視線マウス Gaze Point (Tobii Dynavox) を用いて視線入力装置と目の位置合わせをしているところ。
2020年8月
2,ヘッドレストの調整(頭部保持の調整)
息子の車いすのヘッドレストは六角レンチで微調整ができます。
少し首を動かせる具合にヘッドレストを調整すると、楽に画面全体に視線を届かせられるようでした。
しかし、首の動きは安定した動きではないため、注視の練習には首を動かしすぎる点が不都合でした。
右:頭が左右に自由に動かせて、画面全体に楽に視線を動かすことができる姿勢
左:その時の、EyeMoT Tools ゲームレコーダーおよびゲームビューワ(伊藤 史人、島根大学総合理工学部 重度障害者支援チーム)による視線の記録
注視が必要な場面や、注視を練習する場面では、顔が正面を向き左右に動きすぎないようにヘッドレストを調節しました。
右:頭の動きをやや制限した姿勢での取り組みの様子
左:その時の、EyeMoT Tools ゲームレコーダーおよびゲームビューワ(伊藤 史人、島根大学総合理工学部 重度障害者支援チーム)による視線の記録
3,部屋の明るさ
視線入力の第一段階では、画面への気づきを促すために部屋全体を暗くしていました。
その後、部屋を暗くするのをやめました。
明るい部屋では画面の周囲の風景に気を取られる可能性がありました。
そこで、黒いスチロール版を使い、画面まわりの視覚刺激を抑えることにしました。
スチロール版はモニターに着脱できるようベルクロでとめることにしました。
天井照明が視野に入り込まないように車いすの向きと角度に気を付けました。
視覚刺激を抑制した部屋のコーナー
2021年7月
Tobii Pro のウェビナーで、センサーの視線追跡の精度は瞳孔が縮小しすぎても散大しても落ちるということを知りました。
センサーが瞳孔の全円を捉えられるようにすることが大切だということでした。
あらためて視線入力をするときの照度を顔の横で測定してみました。30ルクスでした。
写真を撮って確認した瞳孔は散大して、上瞼がかかっていました。
キャリブレーションの精度が低かった原因は、本人の拙さばかりではなかったのだなと思いました。
部屋の明るさが適切ではなかったためにセンサーが全円の瞳孔をとらえることができていなかったことが推測されました。
約200ルクスになるまで天井照明を明るくしてみました・瞳孔は上瞼に隠れなくなりました。
さらに300ルクスまで明るくすると瞳孔径はさらに縮小しました。
200ルクスで試したキャリブレーション結果(画像上)は今まで(画像下)よりも高い精度になりました。
GAZE POINT(Tobii Dynavox) によるキャリブレーションの結果比較
上:照度約200ルクスの場合 下:照度約30ルクスの場合
姿勢づくりと環境づくりには柔軟に根気よく取り組む必要があるようです。
これまでにも、一度は決定した設定を考え直したりやり直したりを繰り返してきました。
息子自身も変わっていきますので、これからも改善し続けていこうと考えています。
2023年6月5日 追記
4,外付けモニターを車いすに固定して使う
自宅以外の場所でも視線入力ができるように、あらたな環境づくりを試みました。
アフターコロナで外出の機会が増えていることと、お値段お手頃な軽量モバイルモニターをゲットできたことで検討することにしたのです。
PC に DisplayPort Alt Mode 対応の USB-C ポートがある場合は、モバイルモニターの USB-Cポート と接続して映像データと電力をやりとりできます。
配線はケーブル1本のみ。すっきりとして便利です。
16インチモニター本体とアーム先端のホルダー部分の合計の重さは1kg未満です。
マンフロットの3段のアーム(最大積載荷重:4.5kg)で車いすに固定できました。
写真のモニターは16インチほど。
今までの24インチの画面よりもかなり小さいので、どうなるかなと思いましたが、EyeMoT sensory のゲームが案外上手にできました。
YouTube 動画
『20230523 ポータブルモニターで視線入力』
https://youtu.be/2piNlTakwYI
※ 重度障害児・者支援アプリ EyeMoT sensory は、島根大学総合理工学研究科 伊藤史人助教が開発したアプリです。
左は上記のゲームの視線履歴です。